果樹の病害虫対策と季節ごとの防除
2026年2月6日

果樹栽培で重要な病害虫対策を季節別に解説。春夏秋冬の防除スケジュール、IPM(総合的病害虫管理)の実践方法、農薬使用の基本から減農薬栽培まで、効果的な防除技術を詳しく紹介します。みかん、りんご、ぶどう、ももなど果樹別のポイントも網羅。
果樹の病害虫対策と季節ごとの防除
果樹栽培において、病害虫対策は収量と品質を左右する最も重要な管理項目の一つです。季節ごとに発生する病害虫の種類や被害のリスクが異なるため、適切な時期に適切な防除を行うことが成功の鍵となります。本記事では、果樹の病害虫対策の基本から季節ごとの具体的な防除方法、そして総合的病害虫管理(IPM)の実践まで、詳しく解説します。
果樹の主要な病害虫と被害の特徴
果樹栽培では、樹種によって発生しやすい病害虫が異なります。柑橘類では黒点病、そうか病、灰色かび病、かいよう病などの病害と、アゲハ蝶の幼虫、アブラムシ、カメムシ類、ミカンサビダニなどの害虫が主な脅威となります。
ぶどうでは晩腐病や黒とう病などの菌類病害が深刻な被害をもたらし、もも(桃)では花感染による病害が多く見られます。これらの病害虫は、放置すると果実の品質低下や収量減少を引き起こし、経済的な損失につながります。
病害虫による被害は、単に果実に斑点や変形が生じるだけでなく、樹勢の低下、翌年の収量減少、さらには樹木の枯死にまで至ることがあります。そのため、日常的な観察と早期発見・早期対応が不可欠です。果樹栽培の基本を理解した上で、適切な病害虫管理を実践することが重要です。
季節別の防除スケジュールと重点対策
春季(3月~5月):発芽から開花期の防除
春は果樹の生育が始まる時期であり、病害虫防除の基礎を築く重要な季節です。3月の休眠期から発芽期にかけては、越冬した病原菌や害虫の卵・幼虫を駆除する絶好の機会です。

りんごやなしの黒星病は、緑芽期から子のう胞子の放出が始まり、晩桃から花弁落下時にピークを迎えるため、この時期の防除が極めて重要です。一方、もも(桃)では多くの病気が花感染を起因とするため、満開期の防除を確実に行い、その後は袋かけまで継続的な防除が必要です。
4月から5月にかけては、気温の上昇とともに害虫の活動も活発化します。特に新芽や若い葉を好むアブラムシ類や、蕾や花を食害する害虫への警戒が必要です。この時期の防除が不十分だと、その後の生育全体に悪影響を及ぼすため、剪定作業と合わせて計画的に防除を実施しましょう。
夏季(6月~8月):成長期と果実肥大期の管理
夏季は果実の肥大期にあたり、病害虫による被害が果実品質に直結する時期です。5月から6月の開花期は、特にみかんなどの柑橘類において最も重要な防除時期とされています。この時期の防除が不十分だと、果樹・果実への被害が大きくなり、収量低下に直結します。
梅雨期は高温多湿の条件が揃うため、菌類病害が発生しやすくなります。灰色かび病、黒点病、晩腐病などは、この時期に急速に蔓延する可能性があります。降雨前の予防的な殺菌剤散布が効果的で、雨が降る前に撒くことで病原菌の侵入を防ぐことができます。
7月から8月にかけては、アザミウマ類やカメムシ類などの吸汁性害虫が増加する傾向があります。これらの害虫は果実に傷をつけ、商品価値を著しく低下させます。定期的な観察と発見次第の迅速な対応が求められます。
秋季(9月~11月):収穫期と越冬準備
秋季は収穫の喜びを味わう季節ですが、収穫後の管理も重要な防除作業の一環です。収穫期にはカメムシ類やミカンサビダニなどの害虫が果実を加害する可能性があるため、収穫直前まで監視を継続します。
収穫後は、病害虫が越冬するための環境を取り除く作業が重要です。落葉や落果、剪定した枝などは病原菌や害虫の越冬場所となるため、速やかに園外に持ち出し、適切に処分します。この作業は、翌年の病害虫発生量を大幅に減らす効果があります。
また、この時期には翌年に向けた土づくりも重要です。有機物(完熟堆肥)を投入することで、病害虫に強い健全な樹を維持する土壌環境を整えることができます。健全な樹勢は、病害虫への抵抗力を高める最も基本的な対策です。
冬季(12月~2月):休眠期の耕種的防除
冬季は果樹の休眠期にあたり、耕種的防除が中心となる季節です。1月から3月の休眠期には、病害虫の影響を受けた枝や葉を剪定し、園外に持ち出すことが基本的な作業となります。
ぶどうでは、休眠期が晩腐病及び黒とう病の重要な防除時期となります。樹体全体に薬液が十分かかるよう、丁寧に散布することが重要です。休眠期の防除は、展葉後の散布よりも高濃度での薬剤使用が可能な場合が多く、効果的に病原菌を抑制できます。
また、冬季は樹皮下や土壌中で越冬している害虫を駆除する好機でもあります。マシン油乳剤などの展着性の高い薬剤を使用することで、越冬中の害虫を窒息させる効果が期待できます。
総合的病害虫管理(IPM)の実践
総合的病害虫管理(Integrated Pest Management: IPM)は、経済的・環境的・社会的に健全な管理決定を行うための体系的アプローチです。IPMでは、単一の防除方法に頼るのではなく、多様な防除手段を組み合わせることで、害虫の抵抗性発達、害虫の再発生、害虫の置き換わりなどの問題を防ぎます。

IPMの基本原則
IPMの核心は、問題の予防、害虫個体数の監視、害虫の正確な同定、そして害虫個体数を許容レベルに保つための戦術の組み合わせにあります。Penn State Extensionのガイドによれば、適時の作物健康観察と害虫個体数の監視が、健全な管理決定を下すために不可欠です。
IPM戦略には以下のような多様な防除手段が含まれます:
生物的防除:捕食、寄生、競合などによって、ある生物を別の生物でコントロールする方法です。天敵昆虫の保護や導入、微生物製剤の利用などが含まれます。
耕種的防除:病害抵抗性品種の植栽、特殊な剪定方法、果樹園の衛生管理などの園芸的実践を活用します。これらは化学的防除に頼らない持続可能な方法として重要です。
行動修正:交尾攪乱剤(フェロモン剤)などを用いて、害虫の生殖行動を妨げる方法です。環境への負荷が少なく、選択的に特定の害虫を管理できる利点があります。
監視とモニタリングの重要性
果樹園における害虫の存在や不在は、様々なトラップやモニタリング方法で検出・監視できます。特に、昆虫性フェロモンを用いたトラップは、最もシンプルで正確な監視方法とされています。
定期的なモニタリングにより、害虫の発生時期や密度を把握し、防除の必要性と適切なタイミングを判断できます。これにより、不要な農薬散布を避け、必要な時に的確な対応を取ることが可能になります。
農薬使用の基本と安全管理
農薬は果樹の病害虫防除において重要なツールですが、その使用には適切な知識と注意が必要です。各都道府県が公開している防除暦や病害虫防除基準を参照し、使用基準を厳守することが求められます。

農薬選択と散布タイミング
農薬の効果を最大限に引き出すには、対象となる病害虫に適した薬剤を選択し、適切な時期に散布することが重要です。殺菌剤は予防的に使用することが基本で、雨が降る前に撒くことで病原菌の侵入を防ぎます。
一方、殺虫剤は害虫の発生初期に使用することで、少ない薬量で高い効果が得られます。害虫の世代が進むと抵抗性が発達する可能性があるため、早期発見・早期対応が重要です。
農薬散布時の注意事項
農薬散布時には、以下の点に注意が必要です:
- 飛散防止:周辺の作物や住宅への農薬飛散を防ぐため、風の強い日や風下方向への散布は避けます
- 防護装備:マスク、ゴーグル、手袋、長袖の服装などの適切な防護具を着用します
- 希釈濃度:ラベルに記載された希釈倍率を正確に守ります
- 収穫前日数:各農薬に設定された収穫前使用日数を厳守します
- 使用回数制限:年間または生育期間中の最大使用回数を超えないようにします
農薬に頼らない防除法の活用
環境に配慮した果樹栽培では、農薬使用を最小限に抑える取り組みが重要視されています。予防的な対策と物理的防除、生物的防除を組み合わせることで、農薬依存度を下げることが可能です。

予防的対策の実践
健全な土づくりは、病害虫に強い果樹を育てる基礎となります。完熟堆肥などの有機物を継続的に投入することで、土壌微生物の多様性が高まり、病原菌の活動を抑制する効果が期待できます。
また、適切な剪定により通風と日当たりを確保することで、湿度が高くなりやすい環境を改善し、病害の発生を抑えることができます。密植を避け、樹冠内部まで光が届くような樹形管理を心がけましょう。
物理的防除と障壁の設置
防虫ネットや果実袋の利用は、害虫の物理的侵入を防ぐ効果的な方法です。特に有機栽培や減農薬栽培では、これらの物理的防除が重要な役割を果たします。
粘着トラップやライトトラップの設置により、害虫の発生を監視すると同時に、一定数の害虫を捕殺することもできます。これらの方法は、農薬散布の要否判断にも役立ちます。
天敵の保護と活用
果樹園には、害虫を捕食・寄生する多くの天敵昆虫が生息しています。テントウムシ、ヒラタアブ、寄生蜂などの天敵を保護し、その活動を促進することで、自然な害虫抑制効果が期待できます。
天敵に影響の少ない選択的農薬の使用や、果樹園周辺に天敵の生息場所となる植生帯を設けることで、生物的防除の効果を高めることができます。
果樹別の防除のポイント
| 果樹種 | 主要病害 | 主要害虫 | 重点防除時期 | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| みかん(柑橘類) | 黒点病、そうか病、灰色かび病 | アゲハ蝶幼虫、アブラムシ、カメムシ | 5月~6月(開花期) | 開花期の防除が最重要 |
| りんご | 黒星病、斑点落葉病、腐らん病 | ハダニ類、カメムシ、シンクイムシ | 緑芽期~落花期 | 降雨前の予防散布が効果的 |
| ぶどう | 晩腐病、黒とう病、べと病 | ハマキムシ、コガネムシ類 | 休眠期、開花前 | 休眠期の丁寧な散布が重要 |
| もも(桃) | せん孔細菌病、灰星病、黒星病 | アブラムシ、カメムシ、シンクイムシ | 満開期~袋かけ前 | 花感染病害が多い |
| なし | 黒星病、黒斑病、赤星病 | ハダニ類、カメムシ、シンクイムシ | 発芽期~幼果期 | 黒星病の初期防除が鍵 |
この表は一般的な傾向を示していますが、地域の気候や栽培環境によって発生する病害虫は異なります。最新の防除暦や地域の普及指導センターの情報を参考に、現地に適した防除計画を立てることが重要です。
まとめ:計画的な防除で健全な果樹栽培を実現
果樹の病害虫対策は、一年を通じた計画的な取り組みが成功の鍵です。季節ごとの重点対策を理解し、予防的な管理を徹底することで、病害虫の発生を最小限に抑えることができます。
総合的病害虫管理(IPM)の考え方に基づき、化学的防除だけでなく、耕種的防除、生物的防除、物理的防除を適切に組み合わせることで、環境への負荷を減らしながら効果的な病害虫管理が実現できます。
日常的な観察とモニタリングにより、病害虫の発生初期に対応することで、被害を最小限に抑えられます。また、土づくりや適切な剪定管理により、病害虫に強い健全な樹勢を維持することが、長期的な果樹栽培の成功につながります。
地域の気候や栽培環境に応じた防除計画を立て、継続的に改善していくことで、安全で高品質な果実生産を実現しましょう。果樹栽培の楽しみを最大限に味わうために、計画的な病害虫対策を実践してください。





